パワー半導体の種類を解説! 何に使う? 用途別の選び方
- 半導体用語集
パワー半導体とは? 注目されている技術的な背景
パワー半導体とは、電流や電圧といった電力を効率的に制御・変換するための半導体素子です。一般的な半導体(ロジックICやメモリ)と異なり、大電流・高電圧に耐えつつ高速スイッチング動作を行えることが特徴です。
主な役割は以下のとおりです。
スイッチング:電流のオン/オフを高速に切り替える
整流:交流を直流(DC)に変換する
電力制御:負荷に応じて電流や電圧を適切に制御する
パワー半導体は、家電の電源回路、産業用インバータ、電気自動車の駆動制御、再生可能エネルギーのパワーコンディショナなど、幅広い分野で利用されています。
現代社会のエネルギー効率向上や電動化に欠かせないキーデバイスといえます。
近年、パワー半導体が注目される背景には、いくつかの技術的トレンドがあります。
省エネルギー化の要求
世界的にCO₂排出削減が求められ、電力変換効率の向上が重要課題になっています。
パワー半導体の低損失化は、システム全体の省エネに直結します。
電動化・再エネの普及
EV(電気自動車)や太陽光発電・風力発電の普及により、大電力を効率よく制御するパワー変換装置の需要が急増しています。
小型化・高周波化
データセンターや通信機器では、電源装置の小型・高効率化が求められています。高速スイッチング可能なSiC(シリコンカーバイド)やGaN(ガリウムナイトライド)などのワイドバンドギャップ半導体が注目されています。
信頼性と安全性の確保
高電圧・大電流を扱うため、熱設計や保護回路の技術も進化しており、より高い信頼性が求められています。
以下の記事でも、詳細を紹介しています。
パワー半導体の基本動作
パワー半導体は、主にスイッチング動作と整流動作の2つで電力を制御します。
スイッチング動作では、トランジスタやMOSFETが高速にオン/オフを切り替え、電流の流れを制御します。
整流動作では、ダイオードが電流を一方向に流し、交流を直流に変換します。
これらの動作により、電圧・電流・電力を必要な形に変換し、モータ駆動や電源供給、充電回路などさまざまな用途で効率的な電力制御が可能になります。
パワー半導体の主要な種類
パワー半導体にはいくつかの種類があり、用途・電圧範囲・電流容量・スイッチング速度によって選択されます。
ここでは代表的な素子を紹介します。
MOSFET(パワーMOSFET)
MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)は、ゲート電圧でチャネルの導通・遮断を制御する電界効果トランジスタです。
動作原理:ゲートに電圧をかけるとチャネルが形成され、ソースからドレインへ電流が流れます。ゲート電流はほぼゼロで、高入力インピーダンスを持ちます。
特性
・高速スイッチング(数百kHz〜MHz級の動作が可能)
・低オン抵抗で導通損失が小さい
・低電圧領域(〜600V程度)で有利
用途
・DC-DCコンバータ、スイッチング電源
・家電や情報機器の電源回路
・EV補機用インバータ、モータ制御回路
IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は、MOSFETのゲート構造とBJTの電流駆動特性を組み合わせた素子です。
動作原理:ゲートに電圧をかけるとMOSFET部がオンし、BJT部が導通して大電流を流せます。
特性
・高耐圧(600V〜数kVクラス)
・大電流制御に強い
・スイッチング速度はMOSFETより遅い(数kHz〜数十kHzが一般的)
用途
・EV駆動用インバータ、鉄道用インバータ
・産業用モータドライブ、UPS(無停電電源装置)
・太陽光・風力発電のパワーコンディショナ
サイリスタ(SCR、GTO、TRIAC)
サイリスタはPNPN構造を持ち、ゲート信号で導通を開始するスイッチ素子です。
SCR(シリコン制御整流器)
・ゲート信号でオンになり、アノード電流がゼロになるまでオンを維持
・位相制御、整流回路に利用
GTO(ゲートターンオフサイリスタ)
・ゲート信号でオフ可能
・高電力変換装置や直流送電に利用
TRIAC
・双方向素子でACの位相制御が可能
・調光器、モータ速度制御、ヒータ制御に利用
特性
・とても大きな電力制御が可能
・スイッチング速度は遅め、ゲート駆動に大きな電流が必要
ダイオード(整流素子)
ダイオードは一方向にのみ電流を流す素子で、整流や保護に不可欠です。
整流ダイオード
交流を直流に変換(整流回路)
ショットキーバリアダイオード(SBD)
・金属と半導体の接合で動作
・順方向電圧降下が低く、高速スイッチングが可能
・スイッチング電源、DC-DCコンバータに最適
高速リカバリダイオード
・逆回復時間が短く、スイッチング損失を低減
・高周波インバータに適用
ワイドバンドギャップ半導体(SiC・GaN)
近年注目されている次世代パワー半導体で、従来のSiデバイスよりも性能が高いです。
SiC(シリコンカーバイド)
・高耐圧(数kV級)で高温動作(200°C超)
・低スイッチング損失
・用途はEV急速充電器、産業用インバータ、太陽光・風力発電パワコン
GaN(ガリウムナイトライド)
・超高速スイッチング(数MHz級も可能)
・小型・高効率な回路設計が可能
用途
・スマホ急速充電器、小型ACアダプタ
・5G基地局、RF電源
これらの新素材デバイスにより、電源装置の高効率化・小型化・高周波化が進んでいます。
パワー半導体の用途別の選択基準
パワー半導体は、電圧・電流の条件、スイッチング周波数、損失特性などによって最適な素子が異なります。
以下に代表的な用途と選択基準を示します。
低電圧・高周波用途:MOSFETが最適
MOSFETはスイッチング速度が速く、オン抵抗が低いため、数十〜数百Vクラスの低電圧・高周波変換回路に適しています。
例:DC-DCコンバータ、PC・サーバ電源、LEDドライバ
メリット:高効率、小型化が可能、ドライブが容易
高電圧・大電流用途:IGBTやサイリスタを選択
IGBTは数百V〜数kVの高耐圧と大電流スイッチングに対応できるため、産業用途で広く使われます。
例:EV駆動インバータ、産業用モータドライブ、太陽光発電パワコン
メリット:低導通損失、大電力制御が可能
さらに、サイリスタ系素子は非常に大きな電力制御が必要な鉄道、送電、溶接機などで選択されます。
高効率・小型化重視:SiC・GaN
SiC(シリコンカーバイド)やGaN(ガリウムナイトライド)は、低損失かつ高周波動作が可能な次世代パワー半導体です。
例:EV急速充電器、太陽光・風力インバータ、高周波スイッチング電源
メリット:システム全体の小型化、高効率化、冷却負荷の低減
用途に応じた選択のポイントは以下のとおりです。
| 用途 | 推奨デバイス | 重視する特性 |
| DC-DC変換、スイッチング電源 | MOSFET |
高速スイッチング、低オン抵抗
|
| EV駆動、産業用モータ制御 | IGBT |
高耐圧、大電流、低導通損失
|
| 送配電、大電力AC制御 | サイリスタ |
耐圧・電流容量、堅牢性
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| 高効率・小型電源、再エネ | SiC / GaN |
高周波動作、低損失、小型化
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