サイリスタとは?基本構造や特性、トランジスタとの違いも解説
- 半導体用語集

サイリスタとは、電力制御やスイッチングに特化した半導体素子です。特に大電流が必要な環境で利用され、製造業の生産ラインや鉄道のモーター制御などで重宝されています。
本記事では、サイリスタの特徴、基本構造、同じような特徴を持つトランジスタとの違いを含めて解説します。
サイリスタとは? 特徴と仕組みについて
サイリスタとは、主に電力制御に使用される半導体素子の一種で、スイッチング機能に優れています。アノード・カソード・ゲートの3つの端子から構成される四層構造で、四層の半導体を交互に配置した「PNPN構造」で形成されています。
ゲートに信号を加えることでスイッチングが始まり、その後はゲートからの信号が不要になる「ラッチ機能」により安定した電力供給が可能です。また、大電流・高電圧環境での使用に耐え、保護回路などの設計にも適しています。
サイリスタには、以下のような特性があります。
ラッチ機能
サイリスタは、ゲートに短いパルス(瞬間的な信号・電流)を加えて一度オン状態になると、その後はゲート信号を切っても電流が流れ続ける「ラッチ特性」を持ち、電流がゼロになるまでスイッチング状態を維持できます。このため、サイリスタは大電流を安定的に通す必要がある場面でとても有効です。
高電圧・大電流耐性
サイリスタは数千ボルトの高電圧や大電流を扱うことが可能で、特に産業用機器や鉄道、送電システムなど、過酷な環境でも安定した動作が求められる用途に適しています。
トランジスタや他の半導体素子に比べ、サイリスタは耐圧性が高いため、信頼性の高い電力制御が可能です。
スイッチング動作
サイリスタは高速のオンオフ制御には向いていないものの、交流電源での動作では自然に電流がゼロになるタイミングでオフになるため、適切な条件下で効率良くスイッチングが可能です。特に、周波数が高くない電力機器でのスイッチングに向いています。
小さなゲート信号での制御
サイリスタは小さなゲート信号で大きな電力を制御できるため、消費電力が少なく、効率的です。この「電流増幅機能」はサイリスタの特長で、リモコン操作での家電製品のオンオフや、遠隔操作が求められる産業用システムで重宝されます。
過電流保護性
高い過電流耐性を持ち、動作中に過剰な電流が流れた際に、損傷を防ぐための保護機能や対策を行います。サイリスタはラッチ機能により、継続的に電流が流れ続ける性質がありますが、過電流が流れると過熱し、素子が破損する可能性があるため、過電流保護が重要です。
特に産業用機器や電源装置の安全性向上に寄与します。
サイリスタの基本構造|PNPN構造と各端子の役割
サイリスタは「PNPN構造」という、P層(アノード側)・N層とP層(中央部)・N層(カソード層)で形成されます。
P層(アノード側)
アノードはP層に接続され、サイリスタ全体で「正極」として働きます。プラスの電圧がかかることで電流の流れを始める準備が整えられます。
通常、アノードはサイリスタがオンになる際、カソードに向かって電流を流す入口の役割となり、電流はアノードからカソードに流れます。
N層とP層(中央部)
中央部にはN層とP層が順に配置され、これらの層がサイリスタの動作を制御する役割を担います。この部分が「空乏層」と呼ばれる電荷が存在しない部分を形成し、電流の流れを止める役割を果たします。
N層(カソード側)
サイリスタの最下層に位置するN層にはカソードが接続され、アノードから流れ込む電流の出口となります。
「負極」にあたる端子で、サイリスタがオン状態になると、アノードからカソードへと電流が流れることでデバイスが動作します。そのためカソードは、電流がサイリスタを通過する際の流れを受け止める側であり、電流経路の終点ともいえます。
ゲート(中央のP層に接続)
ゲートはスイッチング信号を入力するための端子で、サイリスタをオンにするための役割があります。
アノードとカソードに電圧がかかっていても、ゲートに信号が加わらない限りサイリスタはオフのままで電流は流れません。逆に、ゲートに短いパルス電流を加えるとサイリスタがオンになり、以降はゲート信号がなくても電流が流れ続けるラッチ状態になります。
ゲート制御により、小さな信号で大きな電流をスイッチングできるのがサイリスタの特徴です。
サイリスタの種類|GTO・トライアック・IGCT・シリコン制御スイッチ
サイリスタは、用途や動作特性によってさまざまな種類があります。
GTO、トライアック、IGCT、シリコン制御スイッチの4種類について特徴や用途を解説します。
1. ゲートターンオフサイリスタ(GTO)
GTO(Gate Turn-Off Thyristor)は、通常のサイリスタとは異なり、ゲート端子から制御信号を送ることでオフできる特性を持つサイリスタです。従来のサイリスタは、一度オンになると電流がゼロになるまでオフにできませんでしたが、GTOでは外部からの制御でオフにできます。
特徴
・ゲート信号でオフできる
・大電力向けで、高電圧・大電流の電力変換装置に使われる
・高速スイッチング可能なので、産業用モーター制御や鉄道などで使用
用途
鉄道の電力変換装置(インバーター)、産業用モーター制御、送電システムの直流変換装置
2. 統合ゲート制御サイリスタ(IGCT)
IGCT(Integrated Gate Commutated Thyristor)は、GTOをさらに改良したサイリスタで、より高速なスイッチング性能を持っています。GTOではゲートオフ時に損失が発生しやすかったのに対し、IGCTではより低損失で高速なオフが可能です。
特徴
・GTOよりもスイッチング損失が少ないため、高効率な電力変換が可能
・高速スイッチングが可能なので、モーター制御や高周波インバーターで使用される
・高電圧・大電流対応により、送電システムや産業用ドライブに適用
用途
風力発電や太陽光発電の電力変換装置、高電圧直流送電(HVDC)、鉄道の電力制御
3. トライアック(TRIAC)
トライアック(Triode for Alternating Current)は、交流(AC)で使える双方向のサイリスタです。通常のサイリスタは一方向の電流しか流せませんが、トライアックは正方向・逆方向の両方で動作可能なため、交流制御に適しています。
特徴
・双方向導通なので、交流電流をそのまま制御できる
・少ない部品で交流のスイッチングが可能
・位相制御による電力調整ができるので、調光器などで活躍
用途
家庭用調光器(照明の明るさ調整)、モータースピード制御(扇風機、電動工具)、家電(洗濯機、炊飯器など)
4. シリコン制御スイッチ(SCS)
シリコン制御スイッチ(Silicon Controlled Switch, SCS)は、通常のサイリスタに「ターンオフ機能」を追加したデバイスで、ゲート端子に適切な信号を送ることでオフが可能です。GTOと似た動作ですが、より小型で高速な動作が可能な点が特徴です。
特徴
・GTOよりも小型で高速スイッチングが可能
・低電力での制御が可能で、小型の電力制御回路で活躍
・オン・オフ制御でき、汎用性が高い
用途
インバーター回路、自動車の点火装置、電子回路のパルス制御
5. サイダクッター(SIDAC)
サイダクッター(Silicon Diode for Alternating Current)は、一定の電圧に達すると自動的にオンになるスイッチング素子であり、トリガー電圧が高い場合に使用されます。基本的にはサイリスタの一種ですが、ゲート端子がなく、一定電圧を超えると自動的に導通する 仕組みを持っています。
特徴
・スイッチング素子として動作し、一定の電圧以上になると自動的に導通
・ゲート制御不要で単純な動作原理
・高電圧での安定した動作で、産業用の過電圧保護や点火回路に使用
用途
高電圧スイッチング回路:電源回路の突入電流制限、突入電流保護
ネオンランプや蛍光灯の点火回路:高電圧を発生させ、ガス放電を開始
過電圧保護回路:電圧が設定レベルを超えた際の保護機能
6. プログラマブルサイリスタ(PCT)
PCT(Programmable Thyristor)は、ゲート端子を使ってスイッチング電圧をプログラム可能なサイリスタ です。通常のサイリスタよりも柔軟な動作が可能で、特定の動作条件に合わせたトリガー制御ができます。
特徴
・ゲート制御によるスイッチング電圧調整で一定の電圧以上でオンになる
・高精度なスイッチング制御が可能なので、パルス制御に最適
・低電力で動作するので小電力回路でも利用可能
用途
電源回路の突入電流制御:電圧が特定のレベルに達したときに動作
リレーの代替:電子リレーとして使用される
マイクロコントローラとの連携:デジタル回路の制御用途
サイリスタとトランジスタの違い|用途・動作原理を比較
サイリスタとトランジスタは、どちらも電力制御やスイッチングに使用される半導体素子ですが、最も大きな違いはスイッチング特性と用途です。
サイリスタはラッチ機能により、スイッチがオンになった後は電流がゼロになるまでオフにはなりません。これは主に大電流・高電圧のスイッチングに使用される特性です。
トランジスタにはラッチ機能はなく、常に入力信号(ベース電流)によって出力が制御されます。そのため、トランジスタは高速なスイッチングが可能で、細かい電流制御が求められるデジタル回路や増幅回路に最適です。
そのような違いから、サイリスタは電源のオンオフや産業機器のモーター制御、交流電源の整流など、大きな電力が必要な場面に向いています。
トランジスタは、家庭用電子機器や通信機器、パソコン、アンプなど、比較的低電力のデバイスに広く使用され、信号処理やデータ処理のような高速動作が求められる場面に適します。
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