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ダイオードの種類を解説|特徴・構造・主な用途

  • 半導体用語集
公開日:2025.05.27

ダイオードは、電子回路において「電流の流れを制御する」基本的かつ不可欠な素子です。一方向にしか電流を流さないという基本特性を持ちながら、用途や構造の違いによってさまざまな種類が存在します。

例えば、電源回路に欠かせない整流ダイオード、高速動作に優れたスイッチングダイオード、光を電気信号に変換するフォトダイオード、電圧によって容量が変化するバラクターダイオードなど、それぞれが異なる目的で活用されます。

 

本記事では、ダイオードの代表的な6種類について、構造や動作原理、用途を解説します。

 

 

 

整流ダイオード

 

整流ダイオードとは、交流(AC)を直流(DC)に変換するためのもっとも基本的な半導体素子です。電源回路の心臓部ともいえる重要な役割があります。

整流とは、交流を一方向だけに流れるように変換することです。整流ダイオードは、順方向には電流を通し、逆方向には電流を遮断する性質を持っています。この性質を活用せれば、交流を直流に変換できます。

 

構造

整流ダイオードは、PN接合型のダイオードです。PN接合型とは、半導体の「P型領域」と「N型領域」を接合した構造を持ちます。

 

順方向:P側に正電圧、N側に負電圧 → 電流が流れる

逆方向:P側に負電圧、N側に正電圧 → 電流はほとんど流れない

 

主な用途

・ACアダプタや電源回路の整流部

・家電製品、電動工具、産業用機器などのDC供給

・ソーラーパネルの逆流防止用ダイオード

 

 

 

ツェナーダイオード

 

ツェナーダイオードとは、特定の電圧で逆方向に電流を流すように設計されたダイオードです。

通常のダイオードは逆方向に電圧をかけると電流を流しませんが、ツェナーダイオードは「ツェナー電圧(Vz)」と呼ばれるある一定の逆方向電圧を超えると、電流が流れ始めます。

 

構造

基本構造はPN接合型ですが、接合部分が精密に設計されており、逆方向の降伏現象(ツェナー効果またはアバランシェ効果)を利用するように作られています。

 

ツェナー効果とは、ツェナーダイオードが逆方向に電圧をかけられたときに、ある決まった電圧になると電流が流れ出す現象をいいます。

アバランシェ効果とは、半導体に強い逆方向の電圧がかかったときに、電子が加速して他の電子を叩き出し、連鎖的に電流が急増する現象です。

 

ツェナー効果は「静かに水がにじみ出すように」電流が流れ出しますが、アバランシェ効果は「ダムが決壊して一気に水があふれる」ようなイメージです。

 

主な用途

・定電圧回路

・過電圧保護

・クランプ回路

・スイッチ回路のしきい値設定

 

以下の記事で、ツェナーダイオードの詳細について紹介しています。

 

 

 

 

スイッチングダイオード

 

スイッチングダイオードとは、高速でオン・オフの切り替え(スイッチング)動作ができるダイオードです。基本的な構造はPN接合型ダイオードと同様ですが、スイッチング速度の速さが最大の特徴です。

 

構造

基本的にはPN接合型ダイオードと同じく「P型半導体」と「N型半導体」の接合に基づいていますが、高速なスイッチング動作を実現するための最適化が施されています。

 

通常の整流ダイオードは逆方向電圧に切り替えた際、「逆回復時間」が長く、すぐには電流が止まりません。逆回復時間とは、逆方向に切り替えたとき、ダイオードが電流を完全に遮断するまでの時間のことです。

 

高速動作が必要な回路では、逆回復時間が長いと、残留電流やノイズが発生する原因となります。そのため、スイッチングダイオードは拡散層の厚みを抑え、キャリアの蓄積を減少させています。

逆回復時間を短くするのは、構造内のキャリアがすばやく再結合して抜けることで実現されます。

 

主な用途

・高速デジタル回路

・パルス整形回路

・クロック回路

・クランプ回路、スナバ回路 



 

フォトダイオード

 

フォトダイオードとは、光を電気信号に変換する半導体素子で、主に光センサーとして利用されます。光を感知するように設計されており、可視光、赤外線、紫外線などの検出に広く使われています。

 

構造

構造としては基本的にPN接合型ダイオードです。

フォトダイオードは、光子(光の粒子)がPN接合部に入射すると、電子と正孔の対(電子–正孔対)が生成され、これが外部回路に電流として流れるという原理に基づいて動作します。

 

主な用途

・光ファイバー通信(受光素子)

・照度センサー、近接センサー、煙探知機

・分光器、フォトメーター、光量計

・ロボットの位置検出、エンコーダー、光リフレクタ



 

バラクターダイオード

 

バラクターダイオードとは、逆バイアス電圧によって接合容量(静電容量)が変化する特性を利用した、電圧制御型の可変コンデンサとして動作する特殊なダイオードです。

 

バイアス電圧とは、電子部品の動作を制御するために加える電圧のことです。ダイオードにおいては「順バイアス」と「逆バイアス」の2種類があります。

 

構造

バラクターダイオードは通常のPN接合ダイオードと同じ構造を持ちますが、逆方向にのみバイアスをかけて使用されます。このとき接合部分(空乏層)は絶縁層のように働き、コンデンサとしての性質を持ちます。

 

逆バイアス電圧を増やす → 空乏層が広がることで、静電容量が減少する

逆バイアス電圧を下げる → 空乏層が狭くなることで、静電容量が増加する

 

この容量の変化が回路中で利用されます。

 

主な用途

・VCO(電圧制御発振器)

・チューナー回路

・高周波フィルター



 

ショットキーダイオード

 

ショットキーダイオードは、金属と半導体を接合して作られる特殊なダイオードで、他の一般的なダイオード(PN接合型)とは異なる構造と特性を持ちます。

最大の特徴は順方向電圧が低く、スイッチング速度が高速であることです。

 

キャリアの蓄積が少ないため、逆回復時間がほぼゼロとなり高速スイッチングができます。また、電力損失が小さく、発熱も抑えられるため高効率です。

デメリットは接合が浅いため、逆バイアス時に漏れ電流が発生しやすい点です。

 

構造

P型半導体ではなく、金属(M)とN型半導体(N)の接合で構成されます。この接合を「ショットキー接合」と呼び、金属と半導体間に形成される障壁電位(バリア)を利用して、整流作用を持たせます。

電子は金属から半導体へ自由に移動でき、順方向で素早く電流が流れます。

 

主な用途

・スイッチング電源(SMPS)

・インバータ回路

・高周波回路



 

ヘテロ接合ダイオード

 

ヘテロ接合ダイオードとは、異なる種類の半導体材料を接合して作られたダイオードです。

従来のPN接合ダイオードでは同じ半導体(通常はシリコン)をP型とN型に分けて作りますが、ヘテロ接合では異なるバンドギャップを持つ材料同士を接合します。

 

特徴として、キャリアの移動が速く、キャリアの再結合を抑えることでエネルギー損失を少なくできます。また材料によって、光通信や発光素子で波長選択が可能です。

材料選定により、特性をカスタマイズできるメリットがあります。

 

代表的な材料の例

 

材料1 材料2 用途例
GaAs(ガリウムヒ素) AlGaAs(アルミガリウムヒ素)
高速トランジスタ、レーザーダイオード
InP(リン化インジウム) InGaAs(インジウムガリウムヒ素) 光通信受光器
Si(シリコン) SiGe(シリコンゲルマニウム)
RFトランジスタ、太陽電池

 

構造

ヘテロ接合では、材料ごとにバンドギャップや電子親和力が異なるため、接合部でエネルギーバンドに段差(バンドオフセット)が発生します。

 

この段差により、以下のような効果が得られます。

キャリアの閉じ込め効果 → 高速電子を一部領域に集めやすくなる(電子密度の集中)

再結合の抑制 → 発光効率や応答速度が向上

電流密度の向上 → 少ない電圧でも大きな電流が流せる

 

 

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