加速度センサーとは? 動作原理や種類、ジャイロセンサーとの違いは?
- 半導体用語集

加速度センサーは、物体の加速や傾き、振動といった動きを検知し、それを電気信号に変換することで、デバイスの動作や安全機能を支える重要な電子部品です。
近年では、MEMS(微小電気機械システム)技術の進化により、小型・高精度化が進み、スマートデバイスから自動運転、産業用ロボティクスなど、幅広い分野で活用されています。
本記事では、加速度センサの仕組みや種類、応用例についてわかりやすく解説します。
加速度センサーとは?
加速度センサーとは、物体の加速度(速度の変化)を検出するための電子部品です。加速度とは、単に「速くなる・遅くなる」だけでなく、「方向が変わる」といった運動の変化も含まれる物理量であり、これを電気信号として出力するのが加速度センサーの役割です。
多くの加速度センサーは、MEMS(微小電気機械システム)技術を用いて半導体基板上に極小の可動構造を形成し、その動きによる静電容量の変化などを検出して加速度を測定します。
MEMS技術により、小型・低消費電力・高感度といった特徴を持ち、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、自動車、産業機器など、さまざまな機器に組み込まれています。
近年では、加速度センサーとジャイロセンサー、磁気センサーを組み合わせた慣性測定ユニット(IMU)としても使われ、より高度な姿勢制御やナビゲーション機能を支えています。
加速度センサーの動作原理
加速度センサーの動作原理は、物体が加速度を受けたときに発生する慣性力を利用して、その変化を電気信号として検出する仕組みに基づいています。
以下は、代表的な静電容量式の動作原理です。
基本構造
加速度センサーの典型的な内部構造は、以下のような要素から構成されます。
可動質量:センサー内の小さな重りのような構造で、加速度を受けると慣性力で移動
ばね構造:可動質量を固定しておく弾性構造で、一定の方向に動くように制御される
電極:可動質量の移動により静電容量が変化する部分
信号処理回路:容量変化を電圧信号などに変換する回路
動作原理(静電容量式の場合)
1. 加速度の入力
センサが動く(例えば落下する、振動する)ことで加速度が加わります。
2. 可動質量の移動
加速度による慣性力で、内部の可動質量がわずかに変位します。
3. 静電容量の変化
可動質量が移動すると、固定電極との間の距離が変化し、それによって静電容量が変わります。
4. 電気信号への変換
静電容量の変化を電圧や電流の変化として検出し、信号処理回路が加速度値として出力します。
加速度センサーの使用例
加速度センサーは、以下のような用途で使用されます。
家電・モバイル機器
スマートフォン・タブレット
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画面の自動回転:縦向き・横向きを判別
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歩数計アプリ:加速度の周期変化から歩行を検出
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ジェスチャー操作:端末を振るなどの動作で機能を起動
ノートパソコン
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HDD保護機能:落下を検知してヘッドを退避(衝撃保護)
自動車
衝突安全・走行支援
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エアバッグ展開のトリガー:急加速度(衝突)を検知
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横滑り防止装置(ESC):車体の傾きや滑りを検出
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車線維持支援やADASの一部:IMUの一部として使用される
車内ユーザー体験
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ドライバーの姿勢変化検知
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盗難防止アラーム:不正な揺れを検出
ウェアラブル・ヘルスケア機器
スマートウォッチ/フィットネストラッカー
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運動量の記録(歩数・ランニング・階段上昇など)
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睡眠中の動きから睡眠の質を分析
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転倒検知:高齢者や医療分野での安全機能
産業・IoT・ロボット
工場・設備監視
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振動監視による故障予知保全(予兆検知)
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無人搬送車(AGV)の姿勢制御や転倒検知
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ドローンのバランス制御(加速度+ジャイロによるIMU)
IoTセンサーノード
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無線センサーでの地震・振動モニタリング
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屋内位置推定やビーコン連携
加速度センサーの種類【検出方式の違い】
加速度センサーは、加速度の検出原理(検出方式)に応じていくつかの種類に分類されます。
用途や性能要求に応じて最適な方式が選ばれており、それぞれに特長と適用分野があります。
静電容量式(容量変化型)
加速度によってセンサー内部の可動電極が変位し、固定電極との間の静電容量が変化することで加速度を検出します。
特徴
・MEMS技術による製造が可能で、非常に小型・低コスト
・ノイズが少なく、高感度
・消費電力が小さく、モバイル機器に最適
用途例
スマートフォン、ウェアラブルデバイス、ゲーム機のモーション検知
ピエゾ抵抗式(ひずみ抵抗型)
加速度により発生した機械的ひずみが、センサー内部の抵抗体の抵抗値を変化させる原理を用います。
特徴
・小型化可能だが、温度の影響を受けやすい
・高速応答が可能
・回路構成がシンプル
用途例
車両衝突検知、一部の産業用振動計
ピエゾ電気式(圧電型)
加速度により発生した力が圧電体に加わることで、電荷(電圧)を発生させる性質を利用します。
外部電源を必要としません。
特徴
・高感度で広い周波数帯域に対応
・高温環境下でも安定動作
・ゼロ加速度での出力がない(DC検出不可)
用途例
構造物の振動監視、工業用加速度センサー(高速回転機械の振動分析など)
共振式(共振周波数検出型)
加速度が加わることで微小な共振子(振動子)に応力が生じ、その結果として共振周波数が変化します。
この変化を検出することで加速度を測定します。
特徴
・非常に高精度・高分解能
・温度補償が必要だが、優れた安定性を持つ
・航空・宇宙分野などに利用されることが多い
用途例
慣性航法装置(INS)、高精度な姿勢制御システム
加速度センサーとジャイロセンサーの違い
加速度センサーとジャイロセンサーは、どちらも物体の動きや姿勢を検出するためのセンサーですが、検出対象や役割には明確な違いがあります。
ジャイロセンサー(ジャイロスコープ)とは、物体の角速度(回転の速さ)を検出するセンサーです。どの方向に、どれだけ速く回転しているかを測れます。回転運動の検出に特化し、静止状態では出力しません。
ジャイロセンサーの詳細は、以下の記事をご確認ください。
加速度センサーとジャイロセンサーの違いを以下にまとめました。
加速度センサー | ジャイロセンサー | |
測定対象 | 直線加速度(移動・重力) | 角速度(回転) |
静止状態での出力 | あり(重力成分を含む) |
なし(静止時は0)
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用途 | 傾き、衝撃、移動の検出 |
回転、姿勢変化の検出
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利点 | 低消費電力、小型、安価 |
回転検出が可能、高速動作に対応
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加速度センサーとジャイロセンサーは、それぞれ単体でも利用されますが、両者は互いに補完的な関係にあり、しばしば同じシステム内で組み合わせて使用されます。
多くの機器ではIMU(Inertial Measurement Unit:慣性測定ユニット)として一体化され、より正確な姿勢・動きの検出に使用されています。