ツェナーダイオードとは? 特性・動作原理・用途を解説
- 半導体用語集

電子回路において、電圧を一定に保ったり、過電圧から回路を守ったりするために必要な部品が「ツェナーダイオード」です。
普通のダイオードは電流を一方向にしか流さない素子ですが、ツェナーダイオードは逆方向でも特定の電圧で電流を流すことができ、この特性を利用して電圧の安定化や保護回路に使われています。
本記事では、ツェナーダイオードの基本的な仕組みから動作原理、特性について解説します。
ツェナーダイオードとは? 名前の由来
ツェナーダイオード(Zener Diode)とは、特定の電圧で逆方向に電流を流すように設計されたダイオードです。
通常のダイオードは逆方向に電圧をかけると電流を流しませんが、ツェナーダイオードは「ツェナー電圧(Vz)」と呼ばれるある一定の逆方向電圧を超えると、電流が流れ始めます。
この特性を利用して、主に電圧の安定化や過電圧保護に用いられます。
ツェナーダイオードという名前は、アメリカの物理学者 クラレンス・ツェナー(Clarence Melvin Zener) を由来としています。クラレンス・ツェナー博士は、強い電界によって起こる絶縁破壊の仕組みを理論的に解明した人物です。
この現象は後に「ツェナー効果(Zener effect)」と呼ばれるようになりました。
ツェナーダイオードの特性
ツェナーダイオードの主な特性について説明します。
ツェナー電圧(Vz)
ツェナーダイオードが逆方向に動作する際、電流が流れ始める基準となる電圧を「ツェナー電圧(Vz)」といいます。ツェナー電圧は製品ごとに定められており、幅広い種類があります。
ツェナー電圧に達すると、ダイオードは逆方向でも導通し、電圧を一定に保とうとします。この性質を利用して、定電圧回路や過電圧保護回路が実現されます。
最低動作電流(Izmin)
ツェナーダイオードは、ただVzに達しただけでは安定した電圧を出力できません。安定したツェナー電圧を保つためには、ある程度の電流が流れている必要があります。この最小限の電流が「最低動作電流(Izmin)」です。
最低動作電流を下回ると、電圧が不安定になったり、ツェナー効果が正しく働かなくなる可能性があります。回路設計時には、最低動作電流を確保するように抵抗値を設定します。
最大許容電力(Pmax)
ツェナーダイオードには耐えられる電力の上限があります。「最大許容電力(Pmax)」と呼ばれ、一般に500mW(0.5W)や1W、5Wなどの製品があります。
ツェナーに流れる電流とツェナー電圧の積(Vz × Iz)がこの定格を超えると、ダイオードが破損するおそれがあります。回路設計では、電力損失を計算して、安全な範囲で使用することが重要です。
温度特性(温度係数)
ツェナーダイオードの電圧は、周囲の温度によって変化します。温度による変化量を「温度係数」と呼びます。
ツェナー電圧が低い製品(5V以下)では、温度が上がると電圧が下がる「負の温度係数」が多く、高い電圧(6V以上)では「正の温度係数」を持つものが主流です。5.6V付近のツェナーダイオードは、温度係数がほぼゼロになるように設計されており、温度の影響を受けにくいという特長があります。
ツェナーダイオードの動作原理
ツェナーダイオードは逆方向の動作をする際、「ツェナー効果」と「アバランシェ効果」の両方を使い分けています。
ツェナー効果
ツェナー効果とは、ツェナーダイオードが逆方向に電圧をかけられたときに、ある決まった電圧になると電流が流れ出す現象です。
半導体のpn接合に強い逆電圧をかけると、空乏層に強力な電界が発生します。この電界が十分に強いと、価電子帯の電子がエネルギー障壁を超えずに、量子トンネル効果によって伝導帯に移動します。移動により、逆方向でも電子が流れる=電流が流れることになります。
簡単に言うと、ツェナーダイオードが「ダム」だった場合、通常時は水(電流)がせき止められています。しかし、ダムに水が溜まりすぎる(電圧が高すぎる)と、安全のために放流が始まります。
この放流が始まる水位(=電圧)」をツェナー電圧でいい、この現象が「ツェナー効果」です。
アバランシェ効果
半導体に強い逆方向の電圧がかかったときに、電子が加速して他の電子を叩き出し、連鎖的に電流が急増する現象です。「雪崩(Avalanche)」のように一気に起こるので、アバランシェ効果と名付けられています。
ツェナー効果は「静かに水がにじみ出すように」電流が流れ出しますが、アバランシェ効果は「ダムが決壊して一気に水があふれる」ようなイメージです。
ツェナー効果 |
アバランシェ効果
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原理 | 電界によるトンネル効果 | 電子が他の電子を衝突し叩き出す |
ツェナー電圧の範囲 | 約5V以下 | 約6V以上 |
電流の変化 | なだらかに流れる | 急激に増える |
温度の影響 | 負の温度係数 (温度が上がると電圧は下がる) |
正の温度係数 (温度が上がると電圧は上がる) |
ツェナーダイオードと整流ダイオードとの違い
ツェナーダイオードと整流ダイオードは、どちらもpn接合を持つ半導体素子で、電流を一方向にしか流さない性質(整流性)を基本としています。しかし、目的や特性がまったく異なります。
整流ダイオードは順方向で電流を流し、逆方向は遮断し、ツェナーダイオードは逆方向に特定の電圧で電流を流す特殊な設計をしています。
整流ダイオード |
ツェナーダイオード
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主な用途 | 整流(AC→DC変換) |
定電圧・過電圧保護
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動作する方向 | 順方向(+ → −)のみ |
順方向(+ → −)と逆方向(− → +)どちらも動作
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逆方向での電流 | 原則流れない |
ツェナー電圧で流れる
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よく使う回路 | 整流回路、フライホイール |
定電圧回路、電源保護、リファレンス
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ツェナーダイオードの用途
定電圧回路
電源電圧を安定した一定の電圧に保つようにする回路です。負荷の変動や電源電圧の多少の変動があっても、安定した電圧を供給します。
電子回路は電圧が高すぎたり低すぎたりすると、動作不良や発熱や破損などのトラブルが起こります。ツェナーダイオードを使うことで、シンプルな構成で必要な電圧に制限でき、安価で簡易な電圧安定回路が作れます。
過電圧保護(クランプ回路)
電圧が高くなりすぎたときに、回路を守る役割があります。過電圧をGNDに逃がして、回路の部品が壊れないようにします。
スイッチングノイズや外部信号のサージ、人の静電気などで、電源ラインや信号ラインに高い電圧が加わることがあるため、そのときに素子の最大定格を超えないように守るのが目的です。
ツェナーダイオードは、設定したツェナー電圧以上になると電流を流して電圧を制限(クランプ)します。
電圧リファレンス(基準電圧源)
回路内で正確な基準電圧(リファレンス電圧)を作るために使われます。
例えば、A/Dコンバーターやコンパレータといった回路では、「この電圧より大きいか小さいか」を正しく判断するために、安定した基準となる電圧が必要です。
ツェナーダイオードは、抵抗と組み合わせるだけで簡単に基準電圧を作れるため、測定回路やアナログ回路の基本的な構成要素として広く使われています。
電源監視・リセット回路
電源電圧が下がりすぎたときに、回路をリセットするためにも使われます。
特にマイコンなどの電子部品は、電源電圧が低すぎると正しく動作できず、プログラムが暴走したり、データの書き込みエラーが起こったりすることがあります。
こうしたトラブルを防ぐためには、電源が安定するまで回路の動作を止めておく仕組みが必要です。ツェナーダイオードを使うと、電圧が一定の値より下がったことを簡単に検出でき、トランジスタやロジックICと組み合わせることで、リセット信号を作り出す回路が構成できます。