トランスデューサとは? 役割や動作の仕組み、アイソレータとの違い
- 半導体用語集

私たちの身の回りにあるスマートフォン、家電、自動車、医療機器など、さまざまな製品には「トランスデューサ」と呼ばれる重要な部品が使われています。音や光、圧力、温度といった目に見えない物理的な現象を、機械が理解できる電気信号に変換したり、逆に電気信号を動きや光などに変える働きを持つのがトランスデューサです。
本記事では、トランスデューサの役割や仕組み、さまざまな種類や用途について、身近な例を交えながら解説していきます。さらに、似たような機器である「アイソレータ」との違いについても紹介します。
トランスデューサとは? 役割と用途
トランスデューサ(transducer)とは、物理的な量(音・光・温度・圧力など)を、電気信号に変換する、またはその逆を行います。例えば、センサーは環境情報を電気信号に変換するトランスデューサで、アクチュエータは電気信号を動きなどに変えるトランスデューサです。
トランスデューサは「見えないもの(音・圧力・光など)」を電気信号にして「見える化」し、機械やシステムが状況を理解し、反応できるようにする役割があります。
主な用途
スマートフォンのマイク:音響トランスデューサを使用し、音声を電気信号に変換し、通話や録音に使用
テレビのリモコン:光トランスデューサ(赤外線LED・フォトダイオード)を使用し、赤外線信号を送受信
エアコンのリモート制御:圧力・温度センサーを使用し、部屋の状態を検出して自動運転を可能にする
トランスデューサの基本構造と動作の仕組み
トランスデューサの動作の基本は、感知→変換→出力の3ステップです。
1. 入力部(感知)
外部からの物理的な量(音・光・圧力など)を受け取ります。
2. 変換部(エネルギー変換)
受け取ったエネルギーを電気信号などに変換します。
3. 出力部(信号として出力)
変換された電気信号を機器・装置に送ります。
MEMSマイクの動作の流れ
スマホのマイクを例に、動作の仕組みを解説します。スマホのマイクにはMEMSマイクが使用されることが一般的です。
1. 音の入力(音波の到達)
声などの音波がスマホのマイク穴から入ってきます。音波とは、空気分子の高密度・低密度が時間的・空間的に変化して進む振動です。
2. ダイアフラムの振動
MEMSマイク内部には非常に薄い膜(ダイアフラム)があり、音波がこの膜を微細に振動させます。ダイアフラムは、シリコンなどで作られた微細構造(MEMS)です。
3. 静電容量の変化を検出(エネルギー変換)
ダイアフラムのすぐ下には「固定電極」があり、ダイアフラムと電極でコンデンサ(キャパシタ)が形成されています。
ダイアフラムが振動すると、ダイアフラムと電極の間隔が変化します。そしてコンデンサの静電容量が変化し、これを検出することで、音波の強さ・波形を電気信号に変換できます。
4. 電気信号の増幅と出力
変換された微弱な電気信号は、すぐ隣にあるIC(信号処理回路)で増幅・フィルタリング・デジタル変換されます。
その後、スマホのプロセッサに送られ、音声データとして録音・通話などに使用されます。
トランスデューサとアイソレータの違い
トランスデューサとアイソレータは、どちらも信号をやり取りする装置です。電気回路設計や制御システムの中で、「外部とのやりとりに使う部品」として似たようなポジションにありますが、使用する目的や用途は大きく異なります。
アイソレータとは
アイソレータとは、入力回路と出力回路の間に電気的絶縁(アイソレーション)を持たせながら、信号だけを安全に伝えるための装置です。主にノイズ除去、感電防止、グラウンドループの防止などのために使用されます。
入出力のエネルギーの種類は変わらず、どちらも電気信号を扱うという特徴があります。絶縁を保ったまま通信でき、医療機器や産業制御、通信回路などで重要です。
フォトカプラ(光アイソレータ):LEDの光でフォトトランジスタを動かす
アイソレーションアンプ:高電圧系と制御系を分離
デジタルアイソレータ:高周波信号やパルスを磁気的に伝送
トランスデューサとアイソレータを比較
トランスデューサ |
アイソレータ |
|
目的 |
エネルギーの変換 |
電気的絶縁(分離)と信号伝達 |
主な機能 |
物理的な量(音、光、温度など)を電気信号に変換、またはその逆 |
電気的に分離された2つの回路間で信号をやり取り |
構造や原理 |
圧電素子、半導体、センサーなど |
フォトカプラ、トランス、デジタルアイソレータなど |
例 |
マイク、温度センサー、加速度センサー、スピーカー |
フォトカプラ、アイソレーションアンプ、デジタルアイソレータ |
トランスデューサの種類
主なトランスデューサの種類について紹介します。
圧力トランスデューサ
圧力トランスデューサとは、流体(空気や水など)の圧力を測定し、それに比例した電圧・電流・デジタル信号などを出力する装置です。機械やコンピュータが圧力を数値として読み取れるようにします。
主に、医療分野の血圧測定や点滴装置の圧力管理、自動車分野のタイヤ空気圧やブレーキ圧、産業分野の配管内の圧力監視、油圧・空圧制御などに利用されます。
光トランスデューサ
光トランスデューサは、光(可視光・赤外線・紫外線など)を検出して、電気的な信号に変換するデバイスです。逆に、電気信号を光に変換するもの(例:LED)も、広義では光トランスデューサに含まれます。
主に、光センサーや光信号通信として利用されます。光センサーは反射光の強さや時間を使って距離を測定したり、照度センサーとして照明の自動調節を行います。光信号通信では、光ファイバー通信としてLEDやレーザーで光信号を送り、フォトダイオードで受信などが可能です。
電力トランスデューサ
電力トランスデューサとは、電圧・電流・周波数・力率・有効電力・無効電力・電力量などの電気量を検出し、アナログまたはデジタル信号に変換する装置です。簡単に言えば、電気がどれだけ流れているか、使われているかを計測し、それを他の機器に伝えるために使う変換器です。
電力トランスデューサの用途は、消費電力を見える化するために利用されたり、急な電力変動や過電流を検出し、設備トラブルを防止する役割などがあります。
超音波トランスデューサ
超音波トランスデューサとは、超音波の送受信を行い、対象物との距離・形状・材質などを測定したり、信号を伝達するためのデバイスです。
多くの超音波トランスデューサは、圧電効果を利用して動作します。送信時、圧電素子に交流電圧を加えると、振動して超音波を発生させます。受信時は物体から反射した超音波が圧電素子に届くと、振動が電圧に変換される仕組みです。
主な用途は、車の後ろの障害物を検知できる超音波センサーや、タンクや河川の水位を測定できる水位計などで利用されます。