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DSP(デジタル信号処理)とは? 動作の仕組み・役割を解説

  • 半導体用語集
公開日:2025.01.08

信号データには音声・画像・通信などがありますが、信号を効率的、そして正確に処理するために重要なのが「デジタル信号処理(DSP)」です。スマートフォンでの音声通話、音楽ストリーミング、ラジオ受信、医療機器や自動車の安全システムに至るまで、DSPは私たちの生活のあらゆる場面に浸透しています。

 

本記事ではDSPがどのように動作し、なぜ必要とされているのかについて解説します。

 

 

DSP(デジタル信号処理)とは

DSP(Digital Signal Processing、デジタル信号処理)は、デジタル形式で表現された信号(音声・画像・電波・センサ信号など)を処理する技術や方法です。信号の変換やフィルタリング、圧縮、ノイズ除去、増幅などのプロセスが含まれます。

 

 

DSPはなぜ必要か?

DSPが必要な理由は、アナログ信号処理だけで対応しきれない課題を解決し、信号処理を柔軟かつ正確に行うことができるためです。

 

アナログ信号はノイズを受けやすく、信号が劣化します。また、アナログ回路はハードウェア設計が固定されているので、後から修正や変更が困難という柔軟性に欠ける点も課題です。

 

その点DSPは、ノイズ耐性が高く、信号の劣化を防げます。デジタル形式に変換することで、数値として精密な処理が可能となり、ソフトウェアで処理内容を変更できる設計の柔軟性もあります。

その他、高速演算も得意でリアルタイムでの信号処理が求められる分野で重宝されます。高度なアルゴリズムを使った複雑な信号処理をリアルタイムで実行できるメリットがあります。

 

 

DSPの動作の仕組み

DSPがどのように動くかをステップごとに解説します。

 

1. アナログ信号をデジタル信号に変換

DSPはアナログ信号(例:音声や電波)をデジタル信号に変換するところから始まります。

 

サンプリング

アナログ信号を一定の時間間隔で「切り取る」作業です。

アナログ信号は連続していますが、デジタル信号にするには離散的なデータに分けます。1秒間に何回切り取るかを決める数値(例:44.1kHzは1秒に44,100回)をサンプリング周波数といいます。

 

量子化

サンプリングした信号の値を「近い数字」に変換する作業です。

アナログの値をコンピュータが扱える数値に変換します。数値の細かさや表現可能な範囲のことを(例:16ビットなら65,536段階で表現)を量子化ビット数といいます。

 

符号化

量子化された値を2進数(バイナリデータ)として保存します。

コンピュータやプロセッサで扱える形式に変換する作業で、この一連の変換は、アナログ-デジタル変換(ADC: Analog-to-Digital Conversion)で行われます。

 

2. デジタル信号の処理

デジタル化された信号に対して、DSPはプログラムされたアルゴリズムを用いて様々な処理を行います。

 

フィルタリング

信号から不要な周波数を除去したり、特定の周波数を強調します。

 

低域通過フィルタ(LPF):高周波ノイズをカットして信号を滑らかにする

高域通過フィルタ(HPF):低周波成分をカットして高周波だけを残す

適応フィルタ:信号に応じて動的にフィルタ特性を変更する

 

周波数解析

信号を時間の流れではなく、周波数の成分に分解します。

 

フーリエ変換:信号を低音や高音などの周波数成分に分ける

スペクトル解析:音や振動の特徴を調べる

 

信号復元

劣化した信号を元に戻します。例えば、古い録音からノイズを除去して音質を改善します。

 

データ圧縮

必要な情報を残して不要なデータを減らし、ファイルサイズを縮小します。音声・画像・動画の圧縮に使用されます。

 

3. デジタル信号をアナログ信号に変換

処理が完了したデジタル信号を改めてアナログ信号に戻します。

 例:スピーカーで音楽を再生する

 

平滑化

デジタル-アナログ変換(DAC:Digital-to-Analog Conversion)による階段状の波形を、フィルタリングして滑らかにします。アナログフィルタを使用して連続的な波形に整えます。

 

4. リアルタイム制御

DSPは高速で計算を行い、リアルタイムで信号を処理します。 

 

例1:通話中のノイズ除去

例2:ラジオで周波数を選んでクリアな音声を提供

リアルタイム処理を可能にするのは、専用のDSPチップや効率的なアルゴリズム(例:高速フーリエ変換)です。

 

 

ラジオにおけるDSPの役割

ラジオにおけるDSPの役割は、アナログ信号をデジタル処理で最適化し、高品質な音声を効率的に提供することです。DSPの活用で、従来のアナログ技術では難しかった柔軟性や機能性を実現しています。

 

1. 信号の復調

ラジオは放送局から送信される変調信号(AM・FM)を受信し、音声やデータに変換する必要があります。

 

FM復調

DSPは周波数変調(FM)信号をデジタル処理で復調します。従来のアナログ回路に比べ、DSPではノイズ耐性が向上し、より正確な復調が可能です。

AM復調

DSPを利用して振幅変調(AM)信号を効率的に復調します。音質向上や不要な周波数成分の除去が簡単にできます。

 

2. フィルタリングとノイズ除去

受信信号には周囲の環境からのノイズが含まれることが多いため、DSPによるフィルタリングが重要です。

 

デジタルフィルタ

不要な周波数成分を除去するため、低域通過フィルタ・高域通過フィルタ・バンドパスフィルタなどを利用することで、受信信号の品質が向上します。

 

ノイズキャンセリング

デジタルノイズリダクション技術を用いて、信号の中のノイズを削減することで、クリアな音声再生が可能になります。

 

3. 自動利得制御(AGC)

ラジオ信号の強度は、送信距離や障害物の影響で変動します。そこでDSPは、信号強度をリアルタイムで監視することで、信号が弱い場合は増幅し、強すぎる場合は抑制させます。

 

4. ステレオデコーダ

FMステレオ放送では、左右の音声チャンネルが一つの信号にエンコードされています。DSPはこの信号を分離し、左右の音声チャンネルを再構築します。

ステレオ信号を分離し、正確な左右バランスを実現するデジタル処理により、音質やステレオ感が向上します。

 

5. マルチバンド受信

現代のラジオは、周波数帯域に合わせた方法でノイズを減らしたり、音声を取り出したりします。受信する電波の種類に応じて最適な処理を行います。

 

6. 音質向上(オーディオエンハンスメント)

DSPは受信した信号に対して音質を向上させる処理を行います。

 

イコライゼーション:高音や低音のバランスを調整

エコー除去:音声信号のエコーを抑制

ダイナミックレンジ補正:大音量と小音量のバランスを最適化

 

7. 統合化と省電力化

DSPはアナログ部品をデジタル処理に置き換えることで、部品点数を削減し、消費電力を低減します。

 

単一チップ設計: 従来は複数の部品で行われていた処理をDSPで統合

低消費電力設計:高効率のアルゴリズムを活用し、バッテリー駆動時間を延長

 

 

 

世界一低消費電力を実現したラジオチューナーIC

半導体商社「トナリズム」では、単四電池1本で駆動可能なFMステレオ受信ラジオ用ICの「TNR0124QF」を開発しました。

 

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