PLL(位相同期ループ)とは? 基本構成や動作原理、種類(アナログ・デジタル)について解説
- ソリューション
PLL(Phase-Locked Loop)は、信号の周波数や位相を精密に制御する電子回路です。その用途はアナログ信号処理からデジタルシステムまで幅広く、周波数シンセサイザやマイクロプロセッサなどの用途で使用されています。
本記事では、PLLの基本的な構造や動作原理を解説し、その種類についても詳しく解説します。
PLLとは?
PLL(Phase-Locked Loop)とは、日本語で「位相同期ループ」という電子回路の一種です。特定の周波数や位相を持つ信号を生成、追従、または制御するために使用されます。
PLLの基本構成
PLLは、以下のような主要な構成要素から成り立っています。
1. 位相比較器(Phase Detector, PD)
位相比較器は、入力信号(外部信号)とフィードバック信号(VCO出力)を比較して位相差を検出します。その位相差に基づいて、エラー信号を生成する役割があります。
エラー信号は、PLLのフィードバックループを通じて位相差がゼロ(または一定の関係)に近づくように制御されます。出力信号は位相差の方向と大きさを反映し、設計に応じてアナログ信号またはデジタル信号として表現されます。
アナログ位相比較器:アナログ信号同士を直接比較
デジタル位相比較器:クロック信号やデジタル信号を処理。フリップフロップを利用する場合が多い
2. ループフィルタ(Loop Filter)
ループフィルタは、位相比較器からのエラー信号を平滑化します。高周波ノイズを除去し、制御信号として適切な形状に整え、スムーズな電圧を生成する役割があります。
フィルタの設計(一次、二次など)は、安定性や応答速度に影響を与えるため重要です。フィルタには、単純なRCフィルタ(抵抗とコンデンサ)や、より複雑なアクティブフィルタを使用します。
3. 電圧制御発振器(Voltage-Controlled Oscillator, VCO)
入力された制御電圧に基づき、発振周波数を変化させる役割があります。出力信号の周波数は制御電圧と一定の関係を持ち、制御電圧が変化することで周波数が動的に調整されます。
VCOの周波数範囲は設計によりますが、広い範囲で動作するものも多く、正弦波や方形波などの信号を生成する用途に応じた設計が可能です。
4. 分周器(Frequency Divider)
分周器は、電圧制御発振器の出力周波数を整数または小数で分周し、位相比較器に入力します。PLLの動作周波数範囲を拡張することで、より柔軟な用途を可能にする役割があります。
分周とは、ある信号の周波数を特定の整数や小数の比率で減少させることをいいます。信号のタイミングや周波数を調整するために、頻繁に使用される技術です。
段階別の動作原理
PLLでは段階別に、以下の動作が行われます。
位相比較器
1. 入力信号(外部クロックなど)とフィードバック信号(VCOの出力信号)を比較し、両信号の位相差を検出します。
2. 位相のずれを示すエラー信号を生成します。エラー信号の極性と大きさが位相差の方向と量を示します。
エラー信号は、次の「ループフィルタ」に送られます。
ループフィルタ
1. エラー信号を受け取り、ノイズ信号を平滑化して高周波ノイズを除去します。
2. 平滑化された信号は、制御電圧として「電圧制御発振器(VCO)」に送られます。
電圧制御発振器(VOC)
VCOはループフィルタからの制御電圧を入力として受け取り、その電圧に応じた周波数で信号を発振します。
信号は「分周器」と「位相比較器」の両方に送られます。
分周器
必要に応じて、「VCO」の出力信号を分周し、フィードバック信号として「位相比較器」に送り返します。
ラジオにおけるPLLの役割
ラジオを例に、PLLがどのような役割を果たしているのかを紹介します。
ラジオ受信機では、主に周波数合成や信号復調に利用されます。PLLを使うことで、正確なチューニングや安定した信号受信が可能になります。
周波数シンセサイザ
ラジオでは、特定の周波数のラジオ局に正確にチューニングする必要があります。PLLは、基準周波数から必要な周波数を正確に生成する周波数シンセサイザとして機能します。
例えば、PLLは10MHzの基準信号を用いて、任意の局(例えば100MHz)の周波数に対応する信号を合成します。
搬送波復調
AM/FMラジオでは、受信した信号から音声データを復調する必要があります。
PLLを使用することで、搬送波(キャリア波)の周波数や位相を正確に再現し、信号の復調を高精度に行えます。
搬送波の周波数が音声信号に応じて変化するFMラジオでは、以下のような工程で信号を復調します。
1. PLLがFM信号の変化する周波数を入力として受け取ります。
2. 位相比較器が入力信号とPLLの内部信号を比較して、周波数の変化をエラー信号として生成します。
3. このエラー信号が、元の音声信号に相当するため、最終的にスピーカーなどに出力されます。
PLLの主な種類
PLLの種類は、大きくアナログPLLとデジタルPLLに分けられます。
アナログPLL(Analog PLL, APLL)
アナログPLL(Analog Phase-Locked Loop)の歴史は長く、PLLの原型ともいえるシステムです。すべての回路構成要素(位相比較器、ループフィルタ、VCO)がアナログ信号を扱います。
メリット
高周波動作:高い周波数での動作が得意で、広帯域の信号処理が可能
優れたノイズ特性:アナログ信号処理により、低い位相ノイズを実現
応答が速い:高速に周波数・位相を追従可能
設計の柔軟性:ループフィルタの設計次第で特性を柔軟に調整可能
デメリット
環境条件の影響:温度や製造ばらつきなどの環境条件によって変化しやすい
デジタルシステムとの互換性:デジタル回路との直接接続が難しく、変換回路が必要
集積化の制限:アナログ部品はデジタル部品よりも面積を取るため、小型化が難しい
用途
無線通信:ラジオやテレビの周波数ロック
モータ制御:モータの回転速度や位相の制御
計測器:高精度な周波数発生器や分光計
デジタルPLL(Digital PLL, DPLL)
デジタルPLLは、基本的にアナログPLLと同様の構造ですが、一部またはすべてがデジタル化されています。
例えば、位相比較器やループフィルタがデジタル処理を行い、デジタル信号を扱います。多くの場合、最終的な出力信号はアナログ発振器(VCO)によって生成されますが、完全デジタル化されたPLLでは出力もデジタル信号になります。
メリット
柔軟性:デジタル信号処理により、設計や動作条件の調整が容易
高い集積性:IC化やシステムオンチップ(SoC)に適していて、小型で消費電力が低い
安定性:温度や製造ばらつきの影響を受けにくい
低消費電力:省電力設計が可能
デメリット
応答速度の制限:クロック速度に依存するため、アナログPLLに比べ応答が遅い場合がある
ノイズ特性:アナログPLLに比べ、量子化ノイズやデジタル信号処理によるノイズが課題
用途
デジタル通信:クロックリカバリ、符号同期
マイクロプロセッサ:クロック生成と同期
スマートフォン、IoTデバイス:低消費電力設計
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