アーム(ARM)とクアルコム(Qualcomm)のライセンス契約解除問題が半導体業界に与える影響
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ソフトバンクグループ傘下のイギリスの半導体設計大手アーム・ホールディングス(Arm Holdings)は、長年のパートナーであるアメリカの半導体大手クアルコム(Qualcomm)とのライセンス契約を解除する意向を示しました。
上記の動向はスマートフォン市場だけでなく、広範な半導体業界に大きな影響を与える可能性があります。本記事では、契約解除の背景、両社の主張、今後の展開について解説していきます。
ライセンス契約解除の背景
アームは、クアルコムに対してチップ設計に必要な知的財産と命令セットのライセンスを取り消す通告を行いました。ブルームバーグなどの報道によると、この通告には60日間の猶予期間が設けられており、期間内に合意が成立しない場合、クアルコムは製品の販売停止や多額の損害賠償請求に直面する可能性があります。
この契約解除の背景には、2021年にクアルコムがスタートアップ企業ヌビア(Nuvia)を買収したことが大きく関与しています。クアルコムはヌビアから得た技術を基に独自のCPUコア「Oryon」を開発し、Windows搭載ノートPCやモバイルSoC、自動車向け製品への展開を進めてきました。しかし、アームはヌビアに与えたライセンスがアーム独自のコア用であり、他社製品への活用は認めていないと主張しています。これに対し、クアルコムは既存の契約でヌビアの活動もカバーされていると反論しています。
両社の主張
ARM(アーム)
アームは、クアルコムがライセンス契約に違反し、アームの知的財産を不正に利用していると非難しています。2022年には、クアルコムが契約条件を再交渉せずにヌビアを買収したことを理由に、クアルコムを提訴しました。アームは今回の契約解除通告を通じて、クアルコムに対して違反行為の是正を求めています。
Qualcomm(クアルコム)
クアルコムはアームの行動を「根拠のない脅迫」と非難し、ライセンス解除の主張には根拠がないと反訴しています。クアルコムの広報担当者は、「アームの反競争的行為は許されるものではなく、契約に基づくクアルコムの権利が支持されると確信している」と述べています。
業界への影響
アームとクアルコムは、スマートフォンやパソコン市場で重要な役割を果たしており、両社の対立は半導体業界全体に大きな波紋を広げる可能性があります。
特に、クアルコムの主要製品であるSnapdragonシリーズは、アームの設計したチップを基にしており、ライセンス解除が実行されれば、同社の売上高約390億ドル(約5兆9000億円)規模の製品販売に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、この対立はオープンソースのRISC-Vアーキテクチャへの移行を加速させる要因ともなり得ます。2023年10月には、クアルコムとGoogleがRISC-V搭載のWear OS向けチップの開発を発表しており、AndroidチームもRISC-Vのサポートに向けた準備を進めています。RISC-Vへの移行が進めば、アームとクアルコムの依存関係に変化が生じ、業界全体の技術選択にも影響を与える可能性があります。
※RISC-Vとは:RISC-Vは、オープンソースの命令セットアーキテクチャ(ISA)が特徴です。ARMとは異なり、ライセンス料が不要という所にメリットがあります。
今後の展開
アームとクアルコムの法廷闘争は、2024年12月にアメリカ米東部デラウェア州の連邦裁判所で本格化する予定です。両社が60日以内に和解に至らない場合、法的な争いが激化し、製品の販売停止や多額の損害賠償請求といった結果を招く可能性があります。
また、アームとクアルコムの対立は、他の半導体設計企業やライセンシーにも影響を与える可能性があり、アームの知的財産を利用している企業は、今後のライセンス契約の安定性について慎重に見極める必要があります。
まとめ
アームとクアルコムのライセンス契約解除問題は、単なる企業間の争いにとどまらず、半導体業界全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。両社の対立がどのように解決されるのか、また業界がどのように対応していくのか気になりますね。
オープンソース技術へのシフトや新たなパートナーシップの形成が、業界の未来を左右する鍵となりそうです。