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HBMとは? AI技術を支える半導体メモリの特徴・今後の展望

  • 半導体用語集
公開日:2025.09.30

HBMとは? 技術的な特徴

HBM(High Bandwidth Memory)とは、半導体分野で開発された超高速かつ大容量のメモリ技術です。従来のDRAMと異なり、複数のメモリダイを縦方向に積層し、シリコン貫通電極(TSV:Through-Silicon Via)で接続する3D構造を採用しています。

この革新的なアーキテクチャにより、従来の2D構造では実現できなかった高い帯域幅と低消費電力を両立しています。

 

技術的な特徴として、以下の点が挙げられます。

広帯域幅:世代によっては数百GB/sに達するデータ転送速度を実現し、GPUやAIプロセッサの性能を最大限に引き出します。

低消費電力:広いバス幅と3D積層構造により、クロック周波数を過度に上げることなく高性能を発揮し、電力効率に優れています。

高集積化:複数のメモリチップを垂直に積むことで、基板上の占有面積を抑えつつ大容量化が可能です。

プロセッサとの近接配置:インターポーザーを介してGPUやCPUの近い範囲に実装することで、遅延を最小限に抑えます。

 

これらの特徴により、HBMはAIトレーニング、スーパーコンピュータ、高性能グラフィックス処理など、膨大なデータを高速に処理する分野に欠かせないメモリ技術となっています。

 

 

 

AI分野におけるHBMの役割

AI分野においてHBM(High Bandwidth Memory)は、高速かつ大容量のデータ処理を支える中核的なメモリ技術として重要な役割を担っています。

AIモデル、特にディープラーニングは膨大なパラメータを持ち、大規模な行列演算を繰り返し実行するため、演算性能だけでなくメモリ帯域幅がシステム全体の性能を大きく左右します。

 

HBMは次のような点でAI処理に貢献しています。

 

学習処理の高速化

数百GB/sに及ぶ帯域幅により、大規模データを演算ユニットへ迅速に供給でき、学習時間を大幅に短縮します。

 

推論処理の効率化

リアルタイム推論においても、低レイテンシでメモリアクセスが可能なため、応答速度の向上に寄与します。

 

大規模モデルの実行

メモリを3D積層化することで高容量を確保でき、GPTのような大規模言語モデル(LLM)や生成AIモデルの処理を可能にします。

 

電力効率の向上

従来のGDDRメモリと比べて消費電力が抑えられるため、データセンターでのAI運用コスト削減に有効です。

 

 

これらの理由から、HBMはGPU、AIアクセラレータ、HPC(高性能計算機)に不可欠な要素となっており、AIの進化を支える基盤技術と位置づけられています。

 

 

 

HBMの発展と今後の課題・展望

HBM(High Bandwidth Memory)は、半導体分野における高性能メモリ技術として2010年代に登場しました。その目的は、GPUやHPC(高性能計算)、AI分野における膨大なデータ処理に対応するため、従来のDRAMやGDDRを超える高帯域幅と低消費電力を実現することでした。登場以来、HBMは複数の世代にわたり進化を遂げています。

 

 

世代 登場時期 帯域幅 容量 特徴・用途
HBM(初代) 2013年頃 約128GB/s 数GB規模
SK hynixとAMDが共同開発し、GPUに初搭載。
GDDR5より高効率なデータ転送を実現。
HBM2 2016年頃 最大約307GB/s 8GB程度
帯域幅が倍増し、AIやHPC用途で普及。
NVIDIA Teslaシリーズに採用。
HBM2E 2018年頃 最大約461GB/s 24GB程度まで
HBM2の改良版。
AIトレーニングやスーパーコンピュータに活用。
HBM3 2021年頃〜 最大約819GB/s 24GB程度
現行の主力。AI大規模演算・HPC向け。
LLM処理に最適化。
HBM4 2025年4月 最大2TB/s(8Gb/s × 2,048 bit)※JEDEC 標準仕様 最大16層で64GB規模を想定
2025年4月 JEDEC がHBM4標準を正式発表。最大2 TB/sクラスを仕様化。
ベンダーはさらに高速な拡張版を開発中。

 


このように、HBMは世代ごとに帯域幅の拡大、容量の増加、消費電力効率の改善を重ねながら進化してきました。

現在では、AIの進展に伴い、HBMは半導体メモリの中でも特に戦略的に重要な技術として位置づけられています。

 

 

HBMの課題と今後の展望

HBM(High Bandwidth Memory)は半導体分野で大きな注目を集めていますが、その普及にはいくつかの課題があります。

 

まず、製造コストの高さが最大の障壁です。3D積層構造やTSV技術を用いるため製造プロセスが複雑で、従来のDRAMに比べてコストが上昇します。

歩留まりの低さも課題であり、複数のダイを積層する過程でわずかな欠陥が全体の不良につながる可能性があります。

 

さらに、HBMは設計上の制約も抱えています。プロセッサとメモリをインターポーザーで近接配置する必要があるため、基板設計が複雑化し、実装の自由度が下がります。加えて、供給量が限られていることから、需要の高まりに生産が追いつかないという懸念も存在します。

 

一方で、今後の展望としてはとても明るいものがあります。

HBM3の実用化が進み、さらなる帯域幅の拡大と容量増加が実現しつつあります。また、最新のHBM4は2025年4月にJEDECで標準化され、8Gb/s×2,048bit構成により最大2TB/s級の帯域幅を実現可能となりました。HBM4の登場で、AIやHPC(高性能計算)のデータ処理能力は飛躍的に高まることが期待されています。

そして、製造技術の成熟や量産効果によって、コスト面の改善も進むと見込まれています。

 

HBMは依然としてコストや供給面で課題を抱えながらも、AIやスーパーコンピュータ時代に不可欠なメモリ技術として進化を続けると予測されます。

今後は、半導体業界全体の技術革新と市場の拡大に伴い、HBMの役割はさらに大きくなっていくでしょう。

 

 

 

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