Tonari media トナリメディア

集積回路のASICとは? 特徴と用途、CPU・FPGA・マイコンとの違いを解説

  • 半導体用語集
公開日:2025.09.26

ASICとは? 特徴・用途について

ASIC(Application Specific Integrated Circuit、特定用途向け集積回路)とは、その名のとおり特定の機能や用途に特化して設計された半導体チップを指します。

一般的なCPUやマイコンのように汎用的な処理を行うのではなく、あらかじめ定められた処理を効率よく、高速かつ低消費電力で実行することを目的に設計されます。

 

例えば、スマートフォンの通信処理、暗号通貨のマイニング演算、自動車の運転支援機能など、用途ごとに必要な回路だけを組み込み、それ以外の機能は一切排除します。

そのため無駄がなく、効率的な動作を実現できます。

 

 

ASICの主な特徴

高性能化

特定の演算や信号処理に必要な回路のみを搭載するため、無駄がなく処理速度がとても速いのが特徴です。

暗号通貨マイニング用ASICは、同じ処理をCPUやGPUで行う場合と比べて、桁違いの計算速度を発揮します。

 

省電力性

汎用プロセッサのように余分な機能を持たないため、消費電力を大幅に抑えられます。特に携帯機器やIoTデバイスなど、省電力性が重視される分野で有効です。

 

小型化

決められた機能に特化するため、回路規模を抑えられ、チップ面積の削減につながります。結果として基板上での占有面積も小さくなり、機器全体の小型・軽量化に貢献します。

 

量産適性

ASICは設計段階で高額な初期投資(マスク作成や設計工数)が必要ですが、一度量産に入れば単価を大きく下げられます。

スマートフォンや通信インフラ装置など、大量生産が前提の製品で特に有利です。

 


ASICの用途

ASICはその特性から、幅広い分野で導入されています。

 

通信分野

5G基地局や光通信システムでは、膨大なデータをリアルタイムに処理する必要があります。ASICは特定のプロトコル処理や信号変換に特化し、高速化と省電力を同時に実現します。

 

暗号通貨マイニング

ビットコインなどのマイニングでは、特定アルゴリズムを繰り返し実行します。ASICはこの演算だけに特化した設計が可能で、CPUやGPUでは到達できない効率を発揮します。

 

画像処理・AI

ディープラーニングの推論や画像認識処理では、専用の演算ユニットを組み込んだASICが活躍します。

GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)もASICの一種であり、AI処理専用のアーキテクチャを採用しています。

 

車載機器

自動運転やADAS(先進運転支援システム)においては、カメラやセンサーからのデータをリアルタイムで処理する必要があります。

ASICは信頼性・低遅延・省電力が求められる車載分野に適した選択肢です。

 

 

 

ASICとCPUの違い

CPU(Central Processing Unit)は、コンピュータや電子機器の汎用的な処理の中枢です。OSの実行からアプリケーション処理まで幅広い用途に対応でき、ソフトウェアを入れ替えるだけで新しい処理を実行できます。

 

これに対してASICは、柔軟性よりも効率性を優先します。CPUが「何でもできるオールラウンダー」であるなら、ASICは「一芸に秀でたスペシャリスト」です。

 


設計思想

CPU:幅広いプログラムを実行できるよう汎用性を重視

ASIC:あらかじめ決められた処理を効率的に実行するよう専用設計

 

性能と消費電力

CPU:多様な用途に対応できるが、特定処理に限るとASICに比べ効率が低い

ASIC:専用回路により、高速処理と低消費電力を両立

 

それぞれの違いは、CPUは万能性を持ち、ASICは専用性に特化する点にあります。

 

 

 

ASICとFPGAの違い

FPGA(Field Programmable Gate Array)は、ユーザーが自由に回路を書き換えられる再構成可能な半導体です。設計後も機能変更できるため、試作や研究開発、少量生産の場面で重宝されます。

一方、ASICは回路が固定されており、設計後に変更はできません。しかしその代償として、特定の処理を最高効率で実行できます。


ASICとFPGAには、以下のような違いがあります。

 

柔軟性

FPGA:出荷後でも回路を再構成可能

ASIC:回路固定。ただし性能・省電力で優れる

 

開発コストと期間

FPGA:初期費用が低く、短期間で開発可能

ASIC:マスク製造など高額で、開発期間も長い

 

性能・効率

FPGA:柔軟性がある代わりにASICに比べ効率が劣る

ASIC:専用設計により最高の効率を実現


それぞれの違いは、FPGAは柔軟性を重視し、ASICは効率性を重視した設計思想を持つ点に集約されます。

 

 

 

ASICとマイコンの違い

マイコン(Microcontroller Unit、MCU)は、CPUコアに加え、メモリや各種周辺回路を1チップに集積した小規模な汎用コンピュータです。

家電製品や産業機器、IoTデバイスの制御など、幅広い組み込み用途で利用されています。プログラムを書き換えることで多彩な機能に対応できるのが特徴です。

 

ASICはこれとは対照的に、特定の演算や処理に最適化された専用回路を持ち、プログラムによる柔軟性はありません。

 

 

設計思想

マイコン:汎用性を重視し、小型コンピュータとして多用途に利用可能

ASIC:特定用途に合わせた専用設計で、柔軟性はないが効率は高い


処理能力

マイコン:数MHz~数百MHz程度のクロックで制御処理に適する

ASIC:用途に応じた専用回路により、圧倒的な処理速度や省電力を実現

 

まとめると、マイコンは小型汎用コンピュータ、ASICは専用演算回路という違いに整理できます。

 

 

 

Company
会社情報
Contact
お問い合わせ