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ワイドギャップ半導体とは? 主な材料一覧・用途・Si(シリコン)との違い

  • 半導体用語集
公開日:2025.09.16

ワイドギャップ半導体とは?

 

ワイドギャップ半導体(Wide Bandgap Semiconductor)とは、バンドギャップがシリコン(Si)の約1.1 eVよりも大きい半導体材料の総称です。

代表的な材料として、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga₂O₃)、ダイヤモンドなどが挙げられます。これらの材料は、3eV前後から5eV以上の広いバンドギャップを持つことが特徴です。

 

広いバンドギャップを持つことで、次のような優れた物性を実現します。

 

高耐圧特性:絶縁破壊電界がSiの数倍に達し、高電圧回路や大電力変換に適する

低オン抵抗:デバイスの電力損失を大幅に低減

高温動作可能:耐熱性が高く、放熱設計の自由度が広がる

高周波動作適性:キャリア移動度や飽和速度が高く、スイッチング速度が速い

 

これらの特性から、ワイドギャップ半導体は次世代パワーエレクトロニクスや高周波通信分野の中核材料として注目されています。

従来のSiデバイスでは効率や小型化に限界が見え始めており、特に電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、5G通信、宇宙開発などの分野で導入が加速しています。

 

 

 

ワイドギャップ半導体の普及の理由

 

半導体は現代の電子機器の心臓部であり、コンピュータ、スマートフォン、家電、自動車、通信インフラなど、あらゆる分野で使われています。

特にシリコン(Si)半導体は、安価で高品質な単結晶が得られ、加工技術が成熟しているため、半導体産業の標準材料として長年利用されてきました。

 

しかし、Siには物理的な限界があります。バンドギャップが約1.1eVと比較的狭いため、以下のような課題が顕在化しています。

 

高電圧動作の限界:絶縁破壊電界が低く、デバイスを大電圧用にするとオン抵抗が急増

スイッチング損失の増大:高周波動作では発熱が大きくなり、効率が低下

高温動作が困難:熱暴走のリスクがあり、冷却コストが増加

 

特に、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー用のパワーエレクトロニクスで問題となっており、より高耐圧・高効率なデバイス材料が求められる背景がここにあります。

 

そして、ワイドギャップ半導体の登場と普及には、以下のようなトレンドが後押しをしました。

 

EV市場の拡大

車載インバータや急速充電器では、高電圧・高効率なスイッチングデバイスが不可欠。

 

再生可能エネルギーの普及

太陽光発電・風力発電のパワーコンディショナでの電力変換効率の向上が求められる。

 

情報通信の高速化

5G/6G通信や衛星通信で高周波・高出力アンプが必要。

 

省エネ・小型化要求

データセンター、産業機器、家電の電源装置をより高効率・高密度化する必要性。

 

これらの要求に応えるため、Siの限界を超える高耐圧・低損失・高周波特性を兼ね備えた材料として、SiCやGaNを中心とするワイドギャップ半導体が注目され、量産技術が急速に進展しました。

 

 

 

ワイドギャップ半導体の主な材料と特性一覧

 

半導体にはいくつかの代表的な材料があり、それぞれに得意分野と課題があります。

 

材料

バンドギャップ

 (eV)

特徴・主な用途
Si(シリコン) 1.1

・従来の標準半導体

・成熟したプロセス技術

・コストが安いが高耐圧・高温動作に限界

SiC(炭化ケイ素) 約3.3

・高耐圧・高効率

・EVインバータや太陽光パワコンで量産実績あり

・8インチウエハへの移行中

GaN(窒化ガリウム) 約3.4

・高速スイッチングが可能

・高周波回路・5G基地局・USB急速充電器に採用が進む

Ga₂O₃(酸化ガリウム) 約4.8

・超高耐圧動作に有望

・低コストバルク成長が可能、まだ研究段階

ダイヤモンド 約5.5

・最高クラスの熱伝導率と耐圧

・理想的なパワーデバイス材料だが量産コストと製造難度が高い

 

 

特にSiCとGaNは、すでに産業界で本格的に使われ始めており、Siの代替材料として最も実用化が進んでいます。

一方、Ga₂O₃やダイヤモンドは研究開発の段階ですが、将来の超高耐圧・超高効率デバイスとして期待されています。

 

 

 

Si半導体とワイドギャップ半導体の用途の違い

 

Si半導体の用途

シリコン(Si)半導体は、依然としてロジック回路や低電圧アプリケーションの主役です。CMOSロジックやメモリ、マイクロプロセッサなど、数十億個のトランジスタを集積する分野では、成熟した微細加工技術と圧倒的な低コストが大きな強みです。

 

また、家電やPCの電源など比較的低電圧の電力変換では、Si MOSFETやIGBTで十分な効率が得られるため、依然として広く採用されています。

 

Si半導体のメリット

・製造コストが低く、量産技術が確立

・ウエハサイズが大きく、歩留まりが高い

・集積回路向けのプロセス技術が最も成熟

 

 

ワイドギャップ半導体(SiC, GaNなど)の用途

ワイドギャップ半導体は高耐圧・高周波・高効率が求められる分野に最適です。

SiC(炭化ケイ素)は、電気自動車のインバータやオンボードチャージャ、再生可能エネルギー用パワーコンディショナなど、大電力変換が必要な用途で活躍します。

絶縁破壊電界がSiの約10倍と高く、オン抵抗を低く抑えながら高電圧に対応できるため、スイッチング損失が小さく、冷却系の簡略化や装置の小型化が可能です。

 

GaN(窒化ガリウム)は、高速スイッチングと高周波特性に優れ、5G基地局のパワーアンプやUSB急速充電器、データセンター用電源などで採用が進んでいます。スイッチング速度が速いため、高周波駆動でも損失が少なく、高効率化と小型化を同時に実現できます。

 

Ga₂O₃(酸化ガリウム)やダイヤモンドは、さらに高耐圧が求められる次世代用途に期待されています。これらは現在研究開発の段階ですが、将来的には超高圧送電や高エネルギー加速器など、特殊分野での応用が見込まれています。

 

ワイドギャップ半導体のメリット

・広いバンドギャップにより高温動作・高耐圧動作が可能

・臨界電界が高く、同じ耐圧なら素子サイズを小さくできる

・高速スイッチングでスイッチング損失を低減、効率が向上

 

 

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