ヒートシンクとは? 性能や仕組み、水冷・空冷の違いを解説
- 半導体用語集

電子機器や機械が動作すると、内部で熱が発生します。この熱を効率よく外へ逃がすために使われるのがヒートシンクです。
ヒートシンクは発熱部品に取り付けられ、装置の温度上昇を防ぐことで、安定した性能と長寿命を実現する冷却部品です。
本記事では、ヒートシンクの基本的な仕組みや動作原理、使用される材料、冷却方式の違いなどについて解説します。
ヒートシンクとは?
ヒートシンクとは、電子部品や機械部品が発生する熱を効率的に放熱するための冷却部品です。英語の「heat(熱)」+「sink(逃がす・沈める)」という語源の通り、熱を吸収し、空気中へ効率的に拡散・放出する役割を持ちます。
主にCPUやパワー半導体、LEDなど、動作中に高温となる部品に取り付けられ、過熱による性能低下や故障を防ぎます。
なぜ電子機器は熱に弱いのか?
電子機器は熱に弱いため、ヒートシンクが必要になります。なぜ熱に弱いのかというと、電子部品や材料は高温にさらされると性能が低下したり、劣化・破壊されるためです。
半導体の特性変化
トランジスタやICなどの半導体素子は、温度が上がるとリーク電流(漏れ電流)が増加します。
高温では動作速度の低下や誤動作が起こる可能性があり、一定の温度を超えると、半導体そのものが破壊されることもあります。例えば、シリコンの動作温度上限は一般的に150°C前後とされています。
絶縁材料の劣化
プリント基板やコンデンサの絶縁層が高温で劣化し、ショートのリスクが高まります。特に電解コンデンサは熱に弱く、寿命が大幅に短くなるのが特徴です。
はんだや接着部の信頼性低下
温度変化により部品と基板に熱膨張の差が生じ、ひび割れが発生します。はんだ接合部が疲労、破断して接触不良を起こす場合があります。
磁性体・抵抗体の特性変化
インダクタや抵抗器なども、温度によって値が変化してしまいます。精密機器では、温度による影響が大きな誤差の原因になります。
ヒートシンクの仕組みと動作原理
ヒートシンク動作は、熱の移動と放熱の物理法則に基づいています。放熱のステップは「伝導 → 拡散 → 放熱」が基本です。
【熱伝導】熱源からヒートシンクへ
CPUやパワートランジスタなどの発熱部品から、ヒートシンクの基部に熱が移動します。このとき、熱は温度の高い場所から低い場所へ流れる「フーリエの法則」が働きます。
伝導の効率は、ヒートシンク材料の熱伝導率に依存します。
材料には、軽くて加工しやすいアルミニウムや、熱伝導率が高く放熱性能に優れる銅などが使用されます。その他、効率的な熱伝導のため、サーマルグリスや熱伝導パッドが使われることもあります。
【熱拡散】ヒートシンク全体に熱を広げる
ヒートシンクに伝わった熱は、素材内部を通じて全体に拡散されます。熱伝導率が高いほど、短時間でヒートシンク全体が温まります。
ヒートパイプやベーパーチャンバーを内蔵することで、より均等かつ迅速な熱分散が可能です。
【放熱】空気中に熱を逃がす(対流・放射)
熱がヒートシンク表面に広がった後、空気中に熱を逃がすフェーズです。
■対流(ニュートンの冷却法則)
周囲の空気との温度差により、ヒートシンク表面から熱が移動します。
表面積が広いほど多くの熱を逃がせるため、フィン構造が採用されます。フィン構造とは、薄く突き出た板状や棒状の構造のことです。
自然空冷では空気の流れに頼り、強制空冷ではファンで空気の流れを作って効率化します。
■放射(ステファン=ボルツマンの法則)
高温時、ヒートシンクは一部の熱を赤外線として放出します。表面が黒く処理されているのは、放射効率を高めるためです。
空冷と水冷の違い
ヒートシンクに関する冷却方式の「空冷」と「水冷」の違いを比較します。
空冷 | 水冷 | |
冷却媒体 | 空気 |
水や冷却液(クーラント)
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主な構成 | ヒートシンク、ファン |
ウォーターブロック、ポンプ、ラジエーター、チューブ
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放熱方法 | ヒートシンクが空気に直接熱を逃がす |
熱を冷却液に移し、ラジエーターで空気に放熱
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冷却能力 | 中程度(適切な設計で十分) |
高い(高発熱用途向き)
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静音性 | ファンの音が出る |
ポンプ音はあるが静音性に優れることも
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故障リスク | 少ない |
水漏れやポンプ故障のリスクあり
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設置スペース | 比較的コンパクト |
ラジエーター設置のスペースが必要
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ヒートシンクの性能を決める主な要素
熱抵抗
ヒートシンクの性能を数値で評価する最も重要な指標は、熱抵抗(Thermal Resistance)です。単位は「°C/W(ワット当たりの温度上昇)」が使われます。
数値が小さいほど、多くの熱をより低い温度上昇で放熱できるものが高性能です。
例えば、10Wの熱を出す素子に対し、ヒートシンクの熱抵抗が 2°C/W であれば、
温度上昇=10W×2℃/W=20℃
となります。
素材の熱伝導率
熱伝導率(W/m·K)が高いほど熱を早く伝えられます。
一般的な素材の熱伝導率は、以下の通りです。
銅:約390
アルミニウム:約230
グラファイトなど:200〜1000(方向性あり)
表面積(特に空気と接する面)
表面積が大きいほど、空気との接触面が増えて放熱効率が上がります。フィンの数・高さ・厚み・間隔などが影響します。
空気の流れ・フィン構造
自然対流か、ファンなどを使った強制対流かによって効果が大きく変わります。フィンの向きや位置などによって、風の流れが良い方向に流れているかが重要です。
また、フィンの高さ・密度・厚みなどのバランスによって、表面積と空気の通りやすさが変わります。あまりに密すぎると空気が流れにくく逆効果。
使用環境の温度・湿度・気流
外気温が高いと冷却効果が落ちます。
密閉空間ではヒートシンクの性能を発揮しきれません。
まとめると以下の通りです。
熱抵抗(°C/W):性能の指標。小さいほど高性能
熱伝導率:材料の熱の伝えやすさ
表面積:放熱効率に直結
空気の流れ:対流を強めることで冷却力アップ
フィン設計:表面積と空気流通のバランスが重要
接触効率:熱のロスを減らす工夫が必要