発振器(オシレーター)とは? 役割や水晶・MEMSの特徴を解説
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発振器(オシレーター)は、外部入力なしで一定の周期で信号を生成し、電子回路の動作を同期させる役割を持っています。例えば、クロック信号を生成しメモリの同期動作を維持したり、ラジオの送受信のための周波数を生成したり、精密機器の基準信号を生成したりします。
本記事では、発振器の基本的な仕組みや用途に加え、高精度な水晶発振器や、新たな技術として注目されるMEMS発振器について詳しく解説します。
発振器(オシレーター)とは? 役割について
発振器(オシレーター)とは発振回路とも呼ばれ、外部入力なしで自ら周期的な信号(交流波形)を生成する電子回路のことを指します。電子回路や通信機器、計測機器などで広く使われ、クロック信号の生成や無線通信、音響信号の生成に必要な技術です。
増幅回路とフィードバック回路を組み合わせることで、信号を継続的に増幅・発振させる特徴があります。
周期的な波形を生成
外部からの入力がなくても、一定の周波数で信号を発生できます。正弦波、方形波、三角波、のこぎり波など、さまざまな波形を生成可能です。
用途
・CPUのクロック信号(デジタル回路)
・オーディオ信号の生成
・無線通信のキャリア波生成
クロック信号の生成
デジタル回路では、正確なタイミング制御のためのクロック信号が必要です。発振器は、CPU、マイクロコントローラ、通信機器の同期動作を維持する役割があります。
用途
・コンピュータのCPUクロック(例:3.2 GHz)
・マイクロコントローラ(Arduino、Raspberry Piなど)のクロック
・メモリ(DRAM、SSD)の同期クロック
・シリアル通信(UART、SPI、I2C)のボーレート制御
無線通信の周波数生成
ラジオ、Wi-Fi、5Gなどの無線通信では、特定の周波数で信号を送受信する必要があります。発振器が、キャリア波(搬送波)を発生させ、データを変調・復調します。
用途
・FM・AMラジオの送信・受信
・Wi-Fi、Bluetooth、5G、衛星通信
・RF(無線周波数)発振器
・レーダーシステム
周波数の安定化(PLLとの組み合わせ)
発振器単体では周波数のズレが発生することがあるため、PLL(位相同期回路)と組み合わせて安定化させます。VCO(電圧制御発振器)を使用すると、外部電圧によって周波数を調整できます。
用途
・携帯電話・スマートフォンの通信(PLLを用いた周波数シンセサイザー)
・デジタル放送の受信機(チューナー)
・GPSの高精度クロック
オーディオ信号の生成
電子楽器やシンセサイザーでは、発振器が音の波形を生成します。低周波オシレーターを利用して、音の変調やエフェクトを適用させます。
用途
・シンセサイザー(VCOを利用)
・エフェクター(LFOを利用)
・オーディオミキサーのテスト信号
・楽器チューナー
計測・信号処理
発振器は、測定機器で基準信号を生成する役割があります。オシロスコープや周波数カウンターでは、高精度な発振が必要です。
用途
・周波数カウンター
・オシロスコープのキャリブレーション信号
・精密計測機器
タイミング信号の生成
発振回路は、タイマーICやパルス信号生成器としても使用されます。一定の周期でON/OFFを繰り返す信号を作成します。
用途
・タイマーIC(例:555タイマー)
・PWM(パルス幅変調)信号の生成
・電源回路のスイッチング制御
・パルスジェネレーター(信号発生器)
その他、周波数を安定させる役割があります。発振周波数は回路の素子によって決定され、種類によっても安定性に違いがあるのが特徴です。
また、一部の発振器は外部制御によって周波数を変更できます。例えば、VCO(電圧制御発振器)では入力電圧を変えることで発振周波数を変更可能です。
水晶発振器とは? 特徴について
水晶発振器(Quartz Oscillator)とは、水晶振動子を利用して、非常に高精度な周波数の発振を行う電子部品です。圧電効果を利用して振動を発生させ、それを電子回路で増幅・安定化することで一定の周波数の電気信号を出力します。
圧電効果とは、特定の結晶材料(圧電材料)に機械的な力を加えると電圧が発生し、逆に電圧を加えると機械的に変形する現象を指します。水晶は圧電材料の一種です。この特性を利用して、特定の周波数で水晶を振動させ、安定した発振を得ます。
水晶発振器はクロック信号の生成に広く使用されており、コンピュータや通信機器、GPSなどの正確なタイミング制御が求められる場面で重宝されています。
特徴
水晶発振器の一番の特徴は高精度な点です。一般的な水晶発振器の周波数精度は ±50ppm程度ですが、温度補償型や恒温槽型(TCXO・OCXO)では ±0.1ppm~0.01ppmの超高精度を実現します。
温度や電源電圧の変化に対して、比較的安定している点もメリットです。発振周波数のドリフトが少ないため、長時間の使用でも正確なクロックを維持できます。また、シンプルな回路構成で動作するため消費電力も低く、バッテリー駆動のデバイスにも適用可能です。
その反面、衝撃や振動に弱いというデメリットがあります。水晶発振器では外部からの衝撃で発振が乱れることがあるため、それを克服する発振器としてMEMS発振器が誕生しました。
また、固定周波数のため周波数の変更ができません。周波数可変が必要な場合は VCXO(電圧制御水晶発振器) やPLLを利用します。
MEMS発振器とは? 水晶発振器との違い
MEMS発振器(Micro-Electro-Mechanical Systems Oscillator)とは、MEMS技術(微細加工技術)を利用して発振を行う電子部品です。シリコンベースの微細加工技術を活用し、微細な共振構造を機械的に振動させ、それを電気信号に変換することで発振させます。
従来の水晶発振器に代わる新しい発振技術として、より小型で耐衝撃性に優れた特性を持ち、IoT、ウェアラブルデバイス、通信機器などで活用が増えています。
MEMS共振子の動作原理
1. シリコン基板上に作られた微小な機械構造が、特定の周波数で振動する
2. 振動は静電力、圧電効果、熱励起などによって発生する
3. 振動周波数は、共振子の形状・サイズ・材料によって決まる
4. この振動をCMOS回路(PLLなど)で増幅・安定化して発振信号として出力する
特徴
MEMS発振器はシリコンベースのチップサイズで作れるため、超小型・薄型デバイスに適しています。省スペース設計が求められるデバイスに最適です。
また、水晶発振器は衝撃で割れる可能性がありますが、MEMS発振器は機械的な強度が高く耐久性に優れています。動作の温度範囲も広く、−40℃~+85℃(一部は+125℃対応)で動作可能なため、高温環境でも安定して動作可能です。
ただし、水晶発振器ほどの超高精度は実現できません。高精度が必要な基準クロック用途では水晶発振器が優位です。
水晶発振器との違い
水晶発振器 | MEMS発振器 | |
材料 | 水晶(SiO₂:二酸化ケイ素) |
シリコン(MEMS技術を利用)
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発振原理 | 圧電効果を利用した機械振動 |
MEMS共振子の微小機械振動
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周波数安定性 | 非常に高い(ppmレベル) |
高いが水晶には劣る
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温度特性 |
温度変化に影響を受ける (TCXO、OCXOで補正) |
温度補償機能を内蔵可能
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耐衝撃・耐振動性 | 割れやすい(衝撃に弱い) |
強い(自動車・軍事向けに最適)
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サイズ | 小型~中型 |
超小型(チップサイズ)
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周波数可変性 | 固定(PLL併用で調整可能) |
PLL内蔵で柔軟に設定可能
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消費電力 | 低消費電力 |
さらに低消費電力
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製造プロセス | 水晶の切断・研磨が必要 |
半導体プロセス(大量生産しやすい)
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価格 | 比較的高価 |
低コスト(量産が容易)
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用途 | 通信機器、時計、計測機器、PC |
ウェアラブルデバイス、IoT、車載機器
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