中国でAI半導体関連の新興企業が続々と誕生する中、懸念される課題とは?
- 最新動向

中国では、AI半導体分野において新興企業の台頭が著しく、特にDeepSeekが開発した生成AIモデル「DeepSeek-R1」は、低コストでありながらOpenAIのモデルに匹敵する性能を持つと報じられています。
中国では2025年の経済運営方針の1つとして、科学技術による生産性向上を挙げており、その中でもAI開発は重点領域です。今後、AIデータセンターの整備などがさらに進むことが見込まれています。
大手IT企業をはじめ、AI半導体スタートアップ企業による開発が活発化しているため、中国企業における主なAI半導体関連の取り組みや現在の課題についてお伝えします。
新興企業の取り組みが加速
AI半導体の開発はHuawei(ファーウェイ)が積極的に進めており、最新モデルの「Ascend 910C」は、NVIDIAの高性能GPU「H100」に匹敵するほどの性能を持つとされています。Ascend 910Cは3月末までに量産される見通しです。
新興企業では、Moore Threads Technology、Biren Technology、Enflame Technologyの取り組みが加速しており、2024年に新規上場に向けた準備を開始しました。Moore Threads Technologyでは、2023年12月にGPU「MTT S4000」を発表しました。NVIDIAのGPUプログラム環境「CUDA」と互換性を有することが特徴で、独自の開発ツール「MUSIFY」によって、CUDAのコードをMTT S4000に変換できます。
中国企業におけるAI半導体関連の取り組み
華為(Huawei)
通信機器市場においては、世界トップのシェアを誇る企業です。独自AI半導体「Ascend」シリーズを開発しています。
摩爾線程(Moore Threads Technology)
2020年に設立されたファブレス半導体企業で、GPUの設計・開発を専門としています。独自AI半導体「Ascend」シリーズを開発しています。
壁仞智能科技(Biren Technology)
中国のAIチップ設計企業で、高性能GPUの開発に注力しています。元NVIDIAの幹部によって2020年に設立されました。
燧原科技(Enflame Technology)
2018年設立のAIトレーニング向けのチップ開発を専門とする企業です。Tencentなどが支援している企業です。
天数智芯(Iluvatar CoreX)
2015年に設立されたAIおよびHPC向けのチップ設計を手掛ける企業です。GPU製品「天垓」シリーズを展開しています。
中昊芯英(Zhonghao Xinying)
2020年に設立された、TPUなどのGPU以外のAI半導体アーキテクチャの開発を進める企業です。クラウド・サーバー向けが中心です。
北極雄芯(Polar BearTech)
2021年に設立されたチップレット技術に強みがある企業です。2023年に1億元を資金調達しています。
百度(Baidu)
AI技術の研究開発に注力しており、特に自動運転技術の分野で先進的な取り組みを行っています。AI半導体では独自の「kunlun 3」を開発中です。
AI半導体の開発は生産キャパ確保が課題
現在、AI半導体ではNVIDIAの製品が圧倒的なシェアを獲得しています。しかし2022年10月、米商務省が先端AI半導体を中国向けに輸出することを原則禁止し、NVIDIAの高性能品が中国で購入できなくなりました。その後、NVIDIAは規制を回避できる性能の「A800」や「H800」を販売していましたが、2023年10月にさらに輸出規制が強化されています。こうした規制が中国のAI半導体企業にとって追い風となり、販売が拡大しました。
しかしHuaweiの他、Moore Threads TechnologyとBiren Technologyもエンティティリストに追加されたことで、TSMCなどのファンドリーが中国ファブレス企業からの注文に対して対応を制限しました。現在、TSMCは先端半導体の受託生産に関して、中国本土の企業には供給しない方針です。
現状で、中国AI半導体企業の生産に関して、受け皿となっているのが中国のファンドリー最大手であるSMICです。SMICは2024年後半に生産能力の増強を実施し、HuaweiやMoore Threads TechnologyとBiren Technology向けの生産量を高めたとされ、Huaweiの「Ascend 910C」もSMICの「N+2」プロセスで製造される見通しです。しかし旺盛な需要に対して、SMICの生産キャパが十分でなく供給が追い付いていません。他ファンドリー企業への分散化と拡充を進めていますが、相応の時間を有します。
AI半導体の重要度はグローバルで需要が高まっているため、今後状況がさらに複雑になる可能性が高まっています。さらに先日、米国政府は中国のAI半導体に関して新たな輸出規制を発表しました。この規制により、第三国を経由しての入手も困難になり、中国におけるAI開発に制限がかかることが予想されます。
まとめ
中国ではAI半導体分野で新興企業が台頭し、DeepSeekの「DeepSeek-R1」やHuaweiの「Ascend 910C」が注目されています。Moore Threads、Biren、Enflameなどの企業も成長し、GPUやAIチップの開発を進めています。米国の輸出規制によりNVIDIAの最先端チップが供給困難となったことが、国内企業の成長の後押しとなりました。
しかし、輸出規制によるSMICの生産能力不足などの課題があり、中国のAI半導体分野は引き続き制約の中で開発を進めることが予想されます。